創業470年を数える冨田酒造。
200年以上続く企業を世界中で調べると、
50%以上が日本の企業というデータを読んだことがありますが、冨田酒造はその一つ。
それにしても長い歴史を持ちます。
500年超企業は国内でたったの30社ほどらしいので、
将来的には是非とも仲間入りを果たして欲しいものです。
蔵元のある滋賀県木之本は風情を感じる町で、
蔵の面する北國街道沿いにも醤油蔵が2軒も未だに営業しているそうでして、
古いモノづくりが生きている町なのでしょう。
冨田酒造は江戸期に建てられた蔵を今でも酒造りに使っていますが、
狭い入り口から奥へ進むと建物が継ぎ接ぎされている部分を見ることができます。
長い歴史の内には増築や建て替えもあったことでしょう。
冨田酒造はその建物だけで大いなる歴史を感じさせてくれる蔵元です。
現在はモノづくり助成金が出ていまして、
その恩恵もあって優秀な蔵元が設備投資をしていますが、
10年後・20年後を見据えた設備投資には、
それぞれの蔵元の方向性が色濃く出るものです。
大型冷蔵庫、お酒を搾る大型機械、麹室、瓶詰機械、などなど、
酒造りは専用機械が多く汎用性を得られないためか、一つ一つの設備が見た目よりずっと高額です。
いま何が不足していて、何を補充すると酒がどのように変わるか。
造り手は機械メーカーの協力を仰ぎながら、設備投資の順序を決めます。
誤解を恐れずに言えば、現代的な透明感のある酒質はある程度は設備が作ると言っても良いと思います。
酒を造ってくれる特定の微生物だけを健全に生かし、余計な雑菌は極力排除する。
そのためには職人技術や職人の勘だけでは片手落ちで、
温度と水分を自動管理してくれる機械が大切な役割を担っているのが現代醸造です。
冨田酒造では2016年に大幅な改造が行われました。
蔵の深部の建屋を取り壊し、近代的な酒造施設へと作り替える大きな工事でした。
設備投資どころではない、蔵の根幹に関わる大工事。
進捗を聞いていた私にも蔵元の興奮が伝わってきたものです。
冨田酒造15代目蔵元・冨田泰伸さんが作り上げた新蔵は、
私の予想をはるかに超えた圧倒的な美しさを誇る蔵でした。
そこにいるだけで感動を呼び起こしてくれるほど。
それは木がふんだんに使われた伝統美を感じさせる新蔵でした。
いま多くの造り手が透明感のある綺麗な酒質をガムシャラに目指しています。
そのために蔵は徹底的な清潔さが求められ、伝統的な木の道具が少なくなり、
代わってステンレス製の道具が増えています。
合理性を重視すれば間違いのない選択なのでしょう。
清潔さを極めれば、もはや米に直接手で触らない造り手が誕生しているレベルなのです。
蔵の心臓部である麹室ですら、総ステンレス製の最新設備が用意できるほど。
そんな背景がある中での、木を使った新蔵。冨田さんの強い意志を読み取ることができます。
「自分の代で蔵を作るのは間違いなく一回限り。それはもう熟考しました。」
「ステンレス製にすることもできた。ここ20年の酒質だけを考えたらその方が良いのかも。」
10年以上の付き合いのある冨田さんの葛藤を、私もずっと見てきました。
実は、4年前にステンレス製に代表される最新鋭の新蔵を図面まで引いていたそうで、
消費税が8%に上がる前に着工できた可能性もあったとか。
(例えば1億円かかるとして、消費税が3%上がるだけで単純計算で300万円ですもんね!)
しかしそれを白紙に戻した。
なぜなら、「日本酒の蔵元ということを考えたんです。
幸いにして今や海外にまで七本鎗ファンがいる。そのファンが蔵を見に来てくれた時に何を感じ取ってくれるか。
日本を、滋賀という土地を、直感的に感じ取れる蔵にしたかったんです。」
言うなれば、蔵元100年ビジョン。
酒質向上のみを追求することすら目先の感覚で、
100年後に訪れるファンからも佇まいを絶賛されるための新蔵建設。
さすがは創業470年企業の後継者。
私はそのセンスに、冨田さんの蔵元としての力量をまざまざと感じ取って感動していたのです。
とは言うものの、木を使った蔵といえどももちろん酒質も追求しています。
タンクは温度管理が制御できる最新鋭のものです。
それが木の空間に絶妙に配置されています。
伝統美とモダンをバランス良くミックスさせ、動線を考え尽くした美しい機能美の蔵。
そこで生まれる七本鎗の味わいは明らかに鮮やかになりました。
by朧酒店店主 大熊
朧酒店HP 七本鎗
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